えんぴつ画サバイバル

えんぴつと紙を持ってヨーロッパに行き、まるでえんぴつ界のわらしべ長者のように生きていくという、神戸大学1回生によるチャレンジの軌跡を記しています。

最後のえんぴつ画。サバイバル最終日

えんぴつ画サバイバル37日目終了。いよいよ最終日が終わりました。

バイバル最終日だからといって何か特別なことをしたいというわけではなかった。あとはイタリアから描き続けてきたえんぴつ画を完成させて、無事に帰国することだけだった。

朝からナショナルギャラリーへ向かう。

最高にいい天気だったので、ホームレスの人と最後の対話。考えてみると、自分がホームレスになってみないと、ホームレスの人と話す機会なんてほとんど無いよね。

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彼は28年間、理不尽な形で、社会全体から除け者にされ続けてきた。2歳のときから、トイレに顔を突っ込まれたり、狭い部屋に閉じ込められたりされる虐待を受けた。大学では僕と同じ、コンピュータサイエンスを学びたかったが、結局行けなかった。彼はいつも社会的に邪魔者扱いされ、教会や病院では殺されそうになったらしい。

そんな彼の小さい頃の夢を聞いてみた。彼は「家族を作りたかった」と言った。

涙もろいえんぴつ画サバイバーは、すでに半泣きになっていた。家族というものの存在が当たり前になっている僕は、それがどんなに幸福なことであるかをわかっていない。良い両親に恵まれなかったからこそ、彼の夢は、家族が欲しい、なんだと思う。何か物事について、それがそこにあるということがどれだけ幸福であるかに気付く瞬間というのは、それが無いことがどんなに辛いかを知ったときだ。

その夢さえも叶えることができなかった今の彼に、もう夢はない。あとは死ぬだけだって。

これは努力してるとかしてないとか、そういった問題ではない。「努力は裏切らない」なんて言うが、それは努力できる環境におかれて、努力しようと思えばできるという豊かな条件を前提にしている。日本人ならほとんど誰でも、それを夢なんだと語らなくても家族を作ることができるが、彼はそれさえできなかった。僕たちは、幸福ボケしている。

そこら中に転がっている幸福に気付けるサバイバルだったなぁ、と改めて思う。

ただ、なんだかんだで彼も楽しそうに人生を生きているし、僕と話してるときはいつも笑顔だった。

そんな彼ともお別れして、えんぴつ画の仕上げにかかる。最終日はもはや、お金を稼ぐことよりも、集中して絵を仕上げることが僕の仕事だった。

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最後のストリートえんぴつ画。全力で。

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こうやって段ボール敷いて、道に座り込むことももうめったにないだろうなぁ。この瞬間を大事にしながら、この瞬間にしか感じられない気持ちで、この瞬間のエネルギーで描きたかった。

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そして、2時間程度描いて、韓国での空港間の列車代金としては十分すぎる、£11.00(約1430円)を稼いだときに、完成した。

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普段は自分の描いた絵の説明はしないし、それをすることに大きな意義も見出してもいないけれど、今回は少しだけこの絵について書こうと思う。


まず、僕はサバイバル中に出会った、死ぬ気で生きているホームレスたちの絶望感を表現したいと思っていた。

中心には、左を向いた女性らしさをほとんど失った女性を描いたのと同時に、右を向いている男性も重ねて描いた。見えるだろうか?

ただ、彼らは普通の人間ではない。女性の方は鼻や口がダミー。男性の方は口をふさがれて、何も話せない。数人のホームレスと話してわかったことは、彼らはものをいえない無力な存在だということだった。

彼らはまるで、置物のような存在である。とにかく生物学的に生き延びていることには間違いないが、人間らしく生きているとは言えないと思う。ヨーロッパのどの国に行っても、ゴミ箱のように街の一部になっているホームレスがいた。彼らの見た目は、3週間ほど洗濯しなかっただけのサバイバーとは比べ物にならないほどひどく汚れているが、体内もタバコや栄養の不十分なわずかな食料ですっかりボロボロだ。そういう理由から、彼らをゴミ箱のように描いた。

背景は絶望感を表現するために10Bで塗る。彼らは自分の世界に閉じこもる以外の方法を持たなくて、視野を広げてものを見る余裕などない。まるで自分の立っている場所以外が真っ暗であるかのように。一歩踏み出せば新しいチャンスがあるかもしれないが、彼らに足はない。見えているものは、お金を入れてもらう紙コップとお金、そしてゴキブリ。

お金はもはや意味を持たないから、一枚は真っ白の硬貨にした。それは、もう彼らの惨めな人生をむやみに引き延ばすだけであるのかもしれない。僕が話したホームレスの一人は、苦しみ無しに死ねるなら今すぐ死にたいと言った。

もう一つはゴキブリ。僕は個人的に虫を描き続けてきたが、それとは別で、一般的にゴキブリは不潔、排除、拒否を象徴すると思っている。彼らは自分が不潔であることを知っている。彼らは自分が社会から排除されていることも知っている。


絵の内容については大体こういう感じ。画像にするとわからないけど、「表面の良さ」にも一部こだわった。表面が一番美しくなるのは表面がどんな仕上がりになったときだろうかと試行錯誤する。大量の名画を目の当たりにして、表面の良さが少しわかった。画家は使う顔料や配合までを含めて驚くほどにこだわっている。

えんぴつ画で表面を見つめながらこだわって描いたのは初めてだった。えんぴつ画家としての大きな一歩を踏み出したと勝手に思ったが、同時に、えんぴつ画家として訓練する余地がまだまだあるとも思った。

さて、そのえんぴつ画を抱えてあとは帰るだけ。でもその前に、昨日出会った塾を経営されている方と昼食を食べることに!

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タイ料理をおごって頂きました!多分初めて!そして久々のお米!!うまい!

一番有名やと思われる、トムヤムクンだけ僕にとってはいまいちでした。笑

彼がおっしゃった話の中で好きだったのは、何かを一生懸命やろうとすれば、それを応援してくれる人は必ずどこかにいるということ。それはどんなことであってもいい。それは、えんぴつ画サバイバルをやっている中で感じてきたことであった。

経営者としての経験を踏まえて様々な話をしてくださった。サバイバルの最後におもしろい話が聞けて良かった!

チョコに包まれたイチゴもおごってくださりました。ありがとうございます!

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全力で笑ってるな。笑

地下鉄まで送ってもらって、お別れ。ヨーロッパで会ったたくさんの日本人の方々と、また日本で再開するのが楽しみだなぁ。

無事に空港へ。ついに帰国。えんぴつ画サバイバルはこれで終了!

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だと思ったんだけど、ちょっと補足で帰国までの出来事を書いて終わりにします。笑

まずはヒースロー空港から、韓国の仁川国際空港へと向かう。飛行機ももう慣れたもので、問題なく搭乗。

11時間のフライトでしたが、サバイバルの疲れがどっと出たのか、ほとんどぐっすり寝ました。着陸直前に、隣に座っていたロンドン在住の韓国人と話す。彼の専攻は、なんとコンピュータサイエンス!えんぴつ画サバイバルの話や、エンジニアリングの話で盛り上がる。連絡先を交換してお別れ。

今回のサバイバルでは、コンピュータサイエンス系の方にたくさん出会った。それを専攻する人が多いのも事実かもしれないが、人生は、強く願えば、本当に会いたい人、会うべき人に会えるものだと思っている。

その後、仁川空港から金浦空港に向かう。40分ほどかかるが、次のフライトまでは十分な時間がある。えんぴつ画で稼いだ現金£10を13000ウォンに換えて、4500ウォンで移動。

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電車に乗って30分ほど経ったとき、ふとパスポート入れの中をチェックする。

あれ...?パスポートが無い...!

すぐに電車を降りて、荷物をすべて確認する。無い。サバイバル中のどの瞬間よりもゾッとした。

とりあえず急いで仁川空港に戻ることに。5分待ちなのにすごく長く感じられる。もし無かったら、パスポートを再発行して、日本に帰るまでのしばらくは、「韓国でサバイバルしたい!」になるだろうなぁ、と思った。笑

仁川空港に向かう電車の中で、少し考えて、できるだけのことをしようと思った。僕の乗っていた車両の人を全員巻き込む勢いで、英語が一番通じる人を探した。一人、割と話せる人がいたので、その人に色々聞く。空港のどこへ行けばよいと思うか、どうすれば仁川から金浦に速く行けるか、など。僕はとりあえずパスポートを見つけること、そして金浦空港まで遅れずに行くことに必死だった。

そのとき英語に関して、気付いたことがある。僕は、焦りのあまり、めちゃめちゃ速く、流暢にすべてを話していた。発音も悪くないし、英語は「ペラペラ」だった。そのとき、本当に伝えたいことがあるときは、やっぱり話せるものだと実感したのと同時に、話すスピードについて考えさせられた。

日本人の中には英語を話せるようになりたいと思っている人が多いが、その「話せる」の基準は、「ペラペラ」になることだと思っている人が多いと思う。しかし言語は、とりあえず速くテンポよく「ペラペラ」話すことが大事なわけではない。話す相手に合わせて、相手が心地よく聞いて、確実に理解できるようなスピードで話せる人が、「話せる人」だと再確認した。

今回は、相手は少しだけ英語ができる韓国人。だったら高速で話すより、ある程度ゆっくり話すのが適切だった。イギリス人と話すときはもちろん全力のスピードで話しても、相手にすれば普通のスピードだから問題ない。

それにしても電車の中にいた皆さんは、みんなで助けようとしてくれた。英語が全くわからないおばちゃんが、万が一のためにと10000ウォンをくれた。本当にありがたかった。最後までお世話になりっぱなしだ。

仁川空港では必死で空港の人に頼んで探してもらった。落とし物の場所には無かった。イミグレーションのところで、中を確認してもらう。

あった...!

ありました!!

時間もまだ大丈夫!安心した気持ちで金浦空港に向かう。もう何もトラブルは無し!最後せっかくなので、金浦空港で、あのとき頂いた10000ウォンと僕の所持金を合わせた18500ウォンを使って、韓国ノリを買う!!一番安いやつで16000ウォンで、かなり高いけど購入。さらに2500ウォンで水を買って、ちょうど使い切る!

金浦空港からの飛行機は1時間遅れはしましたが、無事、日本に着きました。

これでえんぴつ画サバイバルは本当におしまい。今まで応援してくれた方々、本当にありがとうございました!!